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東京高等裁判所 昭和49年(ツ)66号 判決 1975年2月27日

上告人

井上慶一郎

右訴訟代理人

島田正純

島田叔昌

被上告人

丸正産業株式会社

被上告人

瀬口隆司

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島田正純、同島田叔昌の上告理由一ないし三について。

原判決の適法に確定した事実によれば、本件土地(原判決の引用する第一審判決添付別紙第二目録(一)記載の土地)はもと訴外青山好和所有の一筆の土地で、当時その北及び東の両側が公道に接していたが、同人においてこれを同目録(二)ないし(四)の三筆に分筆した結果、同目録(四)の一筆は右の公道に接しないこととなつたこと、青山は右三筆の土地を一旦訴外西島晴義に売却し、西島はそのうちの一筆(同目録(二)の土地)を昭和四四年一二月一五日被上告人丸正産業株式会社に転売(翌一六日登記済)、他の一筆(同目録(四)の土地)を同年同月二九日上告人に転売(昭和四五年一月一六日登記済)、残りの一筆(同目録(三)の土地)を昭和四五年三月一四日被上告人瀬口隆司に転売(翌翌一六日登記済)、すべて中間省略登記により、青山好和から直接各買主あてに所有権移転登記をしたというのである。

しかして、上告人の取得所有にかかる右目録(四)の土地が現に袋地であることについての原審の認定判断は原判決挙示の証拠に照し首肯することができる。原審は以上の事実を認めた上で、上告人は既に袋地となつていた土地について昭和四四年一二月二九日以降所有者となり、その登記をした昭和四五年一月一六日以降、民法二一〇条一項に基づき袋地所有者として、袋地から公路に至るまでの間、袋地を囲繞する土地を通行することができると判断しているのに対し、上告人は、本件は、民法二一三条二項を適用すべき場合であると主張するのである。しかし本件において、はじめ青山が一筆の土地を右(二)ないし(四)の土地に分筆し、(四)の土地が公路に接しなくなつたからといつて、この段階では右(四)の土地は同一の所有者の所有する(二)(三)の土地に接し、これを介して公路に通じているのであるから袋地でないことは明らかである。次いで上告人が西島から右(四)の土地を取得した直前においては右土地は右(三)の土地とともに西島の所有に属し、(三)の土地は公道に接していたものであつて、(四)の土地が袋地となつたのはもつぱら西島がその所有の(三)(四)の土地の一方(四)の土地を上告人に分譲した結果であるから、その段階においては上告人は民法二一三条二項により右西島に対して右(三)の土地の上に通行権を主張しうべきであつたというべきであろう。しかし当時上告人は西島に対しこれを主張せず、その後西島が右(三)の土地を被上告人瀬口に譲渡した後においてはじめて同被上告人に対し民法二一三条二項による通行権を主張して本訴を提起したのであつて、同被上告人に対する同条項による通行権の主張は失当である。けだし同法条は土地の一部を譲渡することによつて袋地を生じた場合には、その譲渡の当事者は当然そのことを予見しているが故にその当事者間に無償の通行権を生ぜしめ、他の囲繞地に累を及ぼさないことを趣旨とするのであつて、右法条は譲渡の直接当事者間において形成される囲繞地通行権についての特則であつて、その後に特定承継のあつた場合にまで及ぶものでないことは右の趣意に照らし、かつその明文上その規定のないことからみて明らかであり、その承継人の善意悪意によつて結論を異にせず、この場合は同法一一〇条の原則に帰れば足りるものと解すべきであるからである。もつともすでにいつたん譲渡の当事者に対しこの通行権を主張すればこれによつてて直ちにこの通行権は生ずるものであり、その後に右当事者に特定承継を生じた場合は、承継人は当然これを承継すべきものとしなければならないことはいうまでもない。さもないと譲渡の当事者特に譲渡人に対して右通行権の主張を受けたものが、その最終的確定を受ける前に自己の土地を他に譲渡し、転々特定承継を生ぜしめて右請求を免れるという不合理を生ずることとなるからである。また譲渡に関与しない隣地の第三者は右譲渡当事者の特定承継により不測の通行権の対抗を強いられることとなることを避けえないが、その損害は償金によつて償われることをもつて受認するほかはない。次に上告人が前記(四)の土地を取得する以前に(二)の土地を取得した被上告会社に対する同法二一三条による通行権の主張は、同条の法意が右の如くである以上、その要件をみたす何ものもない本件において、その理由のないことは明らかである。従つてこれと同旨に出て本件について民法二一三条二項を適用しなかつた原審の判断は相当である。論旨の引用する最高裁判所昭和三五年(オ)第一三二五号同三七年一〇月三〇日第三小法廷判決(民集一六巻一〇号二一八二頁)は、土地の所有者が一筆の土地を分筆のうえ、そのそれぞれを全部同時に数人に譲渡しよつて袋地を生じた場合に関するものであつて、その点において共有地等の分割によつて直ちに各所有権が各人に分属する民法二一三条一項の場合に準ずる合理性があるのであるから、同条二項と趣旨を同じくすると解されるのであつて、右判決を漫然と順次譲渡の場合についても推及することは妥当でない。従つて右判例は本件と事案を異にし適切でない。本件が全部同日に譲渡され、ただ登記の日が異なるだけであるとの事実は原審において主張されず、従つて原判決の認定しないところである。論旨は採用することができない。《以下、省略》

(浅沼武 加藤宏 園部逸夫)

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